妙好人七三郎さんの続いてのお話です。「阿弥陀経」には、阿弥陀仏は西方十万億の仏土を過ぎた
所に在すと説かれ、「観無量寿経」には「阿弥陀仏、ここを去ること遠からず」とあります。一方では遠く、
一方では近くと説かれているので、古来から問題になっています。白隠禅師はこの点を示して、今度
こそ一本取ろうと考えたのでしょう。「七三郎さん、お前さんが信じる阿弥陀仏は、どこにおられるのじゃ」
と聞くと、「はい、西方十億万の仏土を過ぎた極楽世界におられます」白隠禅師は〈これは、阿弥陀経で
答えたな。よしそれならば、観無量寿経を持ち出して、問いつめてやろう〉と考えたのでしょう。「ほほう、
そんなに遠くにおられるならば、肝心な時に間に合わないではないか。ところで、七三郎さん」と言い
かけた時、遮るように、七三郎さんは「しかし白隠様、今は阿弥陀仏は極楽世界におられません。ご巡教
中です」と意外な事を言い出しました。「それは面白い。どこにご巡教中なのじゃ」「日本でございますよ」
「日本のどこかな」「この三河です」「何と、三河のどこに阿弥陀仏が来ておられるのじゃ」と、白隠禅師が
詰め寄ると、七三郎さんはここぞとばかり、大喝一声、「阿弥陀さまは、ここじゃ」と拳で胸を叩いたのです。
流石の白隠禅師も七三郎さんの迫力にまたしても押されてしまったようです。ご開山親鸞聖人は、浄土和讃に
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十方微塵世界の 念仏の衆生をみそなはし
摂取してすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる
(浄土和讃 浄土真宗聖典註釈版 ５７１ページ)
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とありますように阿弥陀さまは、あらゆる世界に教えを信じて念仏するたくさんの人をごらんになって、
おさめとって、決してお捨てにならずに、お浄土に往生成仏させてくださるかたを阿弥陀さまとお呼び
するのです。その阿弥陀さまのほうからいつでもどこでも今ここにでもこの私一人のために ここじゃと
はたらいてくださることに朋にありがとうございますとご恩報謝のお念仏を申させていただきながら
日暮らしいたしましょう。