おそのさんは、三河の人で、今から約２００年前に愛知県渥美郡田原町に生まれ、
一生お念仏の日暮らしをした妙好人の一人です。今も４月４日の命日には、その
遺徳を偲んで法座がもよおされ、｢聖人のお裏さま恵信尼さまのような方であった
ろう」と慕われています。そのおそのさんにこういう話があります。おそのさんが
ある日お寺にお参りしての帰り道、あまり人の通らない山道を近道と考え急いで
帰ったのだそうです。ところが、山の中で、ひょいと目の前に大きな山犬が現れた
のです。飢えた山犬なら一人ぐらいはとびついて殺す力をもっているといわれて
いますが、その山犬がヌーと現れたものですから、おそのさん驚いたのなんの。
腰をぬかし、その場に座り込んで目をつむって両手で頭をかかえこんでうずくまっ
たというのです。｢いまとびつかれるか、いま食いつかれるか」とおびえていま
したが、いっこうにとびかかえってくる様子もないのです。ふと我に返ったおその
さん、おそるおそる目をあけてみると山犬が道の向こうへ消えていくところでした。
とぶようにして家に帰ったおそのさん、お内仏の前にどっかと座り込んで｢三世の
諸仏に捨てられた身と聞かされてまいりましたが、山犬までが見捨てていきました｣
と泣く泣く味わいを語ったという話です。山犬までが見捨てていくどうしようもな
い煩悩具足の凡夫の私なのです。ご開山親鸞聖人は、ご和讃に □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
十方微塵世界の 念仏の衆生をみそなわし
摂取してすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる（浄土和讃）
(浄土和讃 浄土真宗聖典註釈版 ５７１ページ)
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とおっしゃったようにどうしようもない煩悩具足でがんじがらめで苦悩するこの私
をすでにみぬき、だからこそお慈悲のお心で見捨ずにはおけない、必ず救いとって
くださる方が阿弥陀さまなのです。その阿弥陀さまの御恩に朋にありがとうざいま
す、おかげさまですとただただお念仏を申させて頂きながら日暮らしを致しましょう。
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五濁悪世のわれらこそ 金剛の信心ばかりにて
ながく生死をすてはてて 自然の浄土にいたるなれ
(高僧和讃 浄土真宗聖典註釈版５９１ページ
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と。迷いを離れる縁もない五濁悪世の私たちが、助かる道は、ただひとつ
阿弥陀さまの金剛他力の信心で永久に生死の迷いを捨て果てて浄土に至ら
せていただくことなのです。阿弥陀さまの今ここで私一人のためにはたら
いてくださるご恩に朋に感謝のお念仏を申させていただきながら日暮らし
致しましょう。