山本有三の代表作の｢路傍の石」の話のなかで、中学に行けないと泣く主人公
の吾一にむかって言う次野先生の言葉があります。｢吾一というのは、世界中
にたった一人しかいない。たったひとりしかいない自分をたった一度しかな
い一生をほんとうに生かさなかったら、人間に生まれてきた甲斐がないじゃ
ないか」と言われました。その後、吾一は、この言葉を支えに様々な困難に
立ち向かいながら、まっすぐに成長していくという物語です。このことで、
４月８日は、お釈迦さまの お誕生をお祝いする花まつりです。お釈迦さま
は、生まれてすぐ７歩、歩かれて｢天上天下唯我独尊」と言われたと伝えられ
ています。｢天にも地にも我独り尊し」は、私一人だけが尊いという悪い意味
で言った言葉ではありません。仏の教えにあわせて頂いたならば、自分の尊
さに気づかされるということなのです。私たちは、このことに気づかないで、
何と自分のいのちを粗末にしていることでありましょうか。煩悩具足の凡夫
でありながら、そのことにも気づかない。まるでお酒を飲んで酔いに気づか
ず、さらに酒を飲み続けているような日々を繰り返している凡夫の私が、
仏さまのみ教えにあわせて頂くうちに、生かされている尊いいのちであった
ことに気づかされ、それが他の人のいのちの尊さにも、気づかされていくの
です。まさに仏の教えは、この私を生かすことなのです。ご開山親鸞聖人の
お言葉に
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一切の有情はみなもって世々生々の父母・兄弟なり
(歎異抄第５条 浄土真宗聖典註釈版 ８３４ページ)
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いのちあるものはすべてみな尊いいのち、これまで何度となく生まれ変わり
してきた中で、父母であり兄弟・姉妹であったのです。と言われました。
仏の教えに出遇い自分ひとりの力で生きているのではなくて、見えざる大き
な力によって、生かされて生きている尊いいのちに気づかされ、今ここで私
一人を生かすためにはたらいてくださる阿弥陀さまのご恩に朋に感謝の
お念仏を申しながら日暮らしいたしましょう。