平成２３年 ４月
阿弥陀さまは、わたしが救われることをあきらめません
先月１１日、マグネチュード９というとてつもない大地震が東北地方に起きました。地震もさる ことながら、大津波で家が車が船がそして人々とともに命あるものをのみこみ、これでもかと容赦 なく押し流していくのです。さらに至る所で火災が起こり町全体が火の海と化し壊滅状態に、後に は残ったがれきが積み重なっておそらく原形をとどめない遺体とともに山になっているのです。家 族や親戚や友人が亡くなったり離ればなれになり計り知れない悲しみと苦しみと痛みのなかで、さ らに追い打ちをかけるように原発の放射線の恐怖が忍び寄ってくるのです。
多くの死者、行方不明者を出し、かろうじて命助かった被災者の方も「家もなく家族もなく これ からどうしたらいいのか？生きていけるのか？」と体が震えてただ茫然と立ちつくす姿をマスコミ 通じて涙して見たのは私だけではないと思います。私はこの未曾有の大震災でご開山親鸞聖人が仰 がれた善導大師の二河白道の話を思い出しました。
これは一人の男が、はてしない砂漠を西に向かって歩いています。後ろを振り返ると盗賊たちが刀 をふりかざして命をねらって追いかけてきます。驚いた男は走り出しました。すると突然、目の前 に２つの河があらわれました。左には燃えさかる火の河、右には激しい大波が打ち寄せる水の河で す。「行くも死、帰るも死、とどまるも死」というわけです。「自分はもう助からない。前に進ん でも後ろに帰っても、とどまっておっても死をのがれる事はできない」男は途方にくれてしまいま した。その時、向こうから「どうあってもあなたを見捨てることはできない。
こいよ、こいよ、安心してこの道をこいよ」という阿弥陀さまの声が聞こえてきたのです。阿弥陀 さまは、わたしが救われることをあきらめません。ふと気がつくと目の前の火の河と水の河の中間 に幅５寸ばかりの白い道が見えてきたのです。《目の前に道があるじゃないか。たとえ、どうなろ うとも、阿弥陀さまの言葉を信じてこの道を歩いて行くしかない》と決心しました。後ろから追っ かけてきた盗賊たちが「お〜い、帰ってこい、その道はお前の救われる道ではない。そのまま行け ば、お前は火に焼かれ、水にのまれて死んでしまうぞ。もどってこい」と叫びましたが、
その声に耳もかさず、さきほどの「こいよ、こいよ、安心してこの道をこいよ」の言葉を信じて、 この言葉に励まされてあてたよりとして向こう岸にたどり着いたのです。先に渡った人とお互い手 を取り合い喜び合ったのです。ご開山親鸞聖人の和讃に
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
貪瞋二河の譬喩をとき 弘願の信心守護せしむ (高僧和讃)
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
この大震災と同様、私自身の人生も ぐらぐらと地震のように迷いの世界に倒れっぱなしで沈みっ ぱなしで私の貪りや怒りの煩悩が水や火となり私に襲いかかっているのです。そのことを阿弥陀さ まは見抜いて大いなる慈悲のお心で救わんが為に今ここで私にひとりばたらきで働きづめに働いて くださっているのです。そのご恩に朋に感謝のお念仏を申させていただきながら日暮らしをさせて いただきましょう。