平成１９年１２月
母の火傷と煩悩火傷の私
こういう話がありました。ある母子家庭の少女の悩みのタネは、火傷でひどくなった母親の顔
でした。学校の参観日《お友だちのおかあさんは、みんな美しいのに
なぜ私の母だけが》といつ
も恨めしく思い、嫌悪さえ感じて、いっしょに外出することもいやがるようになりました。その
娘の心が母親にわからないはずはありません。悲しみに耐えながら今まで、だまっていましたが、
ある日とうとう、思いきって、火傷の原因をうちあけることにしました。少女が赤ん坊だった、
ある冬の夜、床についてしばらくすると家が火焔につつまれていました。気がついて起きるとす
でに四方八方が火の海です。もう一刻の猶予もならない中で、母親は、まずわが子を守ることを
考え、落ち着いて毛布で赤ん坊の彼女の体を包み込みました。それを胸に抱き、腕にかかえて火
の海の中をどうにか家の外へ逃れでましたが、そのとき、全身に火傷を負い、中でも顔の火傷が
ひどくて 現在まで残ってしまいました。しかし赤ん坊は、毛布のおかげで、全く無事でした。
そしてそのまま、こんにちの美しい少女に育っていきました。その母親の話を聞きながら、少女
は涙を流して言いました。『ひどい火傷を負ったのに ただ私を守るために おかあさんは、
いのちをかけたんだ。おかあさん、ありがとう。そして今までそうとは知らず本当にごめんなさ
い』と感謝と悔恨の涙でした。火傷で引きつった母親の醜い顔が仏さまにも見えました。それ以
来、少女は、母親に誇りをおぼえて、《母の火傷があるからこそ、五体健全な私がいま存在でき
ているんだ。母が、してきたことのご恩返しは、この私には到底出来ないけど、これから出来る
だけのことをします》というお話でした。御開山親鸞さまは、
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□煩悩具足の凡夫、火宅無常の世界はよろずのこと、みなもてそらごとたわごと、□
□ まことあることなきに ただ念仏のみぞまことにておわします（歎異抄後序）□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずれば、ひとへに親鸞一人がためなりけり。
□
□ （同歎異抄後序） □
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
と申されました。母子家庭の火傷と同様に、燃えさかる家のように移り変わるなか、この身いっ
ぱいに燃えさかる煩悩の火で火傷を負い苦悩する私を見抜いて、だからこそ見捨てずにおけない、
救わずにおれないと阿弥陀さまが、今ここで私一人のために願いをかけてくださっていることに
気づかされて、ただただご恩報謝のお念仏を申させて頂きながら日暮らしをさせていただきましょう。