平成１８年５月
騒音おばさんと強欲婆さんの与えたもの
先日、奈良で２４時間大音量で音楽の流しっぱなし、隣人に不眠や頭痛の苦しみを与えた騒音
おばさんが逮捕されたニュースが取り上げられていました。このニュースを聞いた時に 私は、
こういうお話を思い出しました。ある時、お釈迦様の弟子である迦留陀夷尊者（かるだいそん
じゃ）が強欲婆さんを救おうとしていたのです。そうとは知らずに強欲婆さんは、隣からモチ
をもらって焼き始めながら、今誰かがきたら、ひときれやらなければならないと、戸をしめて
鍵をかけました。そこに迦留陀夷尊者がやってきました。でも鍵がかかっているので、迦留陀
夷尊者は、縁の下から頭を出しました。「この坊主め、そうまでしてこのモチがほしいのか、
しかし目玉が飛んで出てもやるものか」と言うと、迦留陀夷尊者は、何という強欲婆さんだろ
うかと、だからこそ、どうあっても救わずにおれないと尊者の両方の目玉が飛び出したのです。
「何としぶとい坊主だ。家の中で逆立ちして１００遍回ってもこのモチはやらんぞ」と言いまし
た。迦留陀夷尊者は、いよいよ不憫（ふびん）に思って、逆立ちして１００遍家の中を回った
のです。「何としぶとい坊主め。坊主死んでも もちはやらんぞ」と言いました。すると迦留
陀夷尊者は、家の中で死んでしまいました。するとさすがの強欲婆さんも自分が殺したことに
なると思って「もしもし、こんなところで死んでしまっては、私が殺したことになります。
どうか生きかえって下され。モチをひときれさしあげます」と言うと迦留陀夷尊者は生き返り
モチをもらって鉢の中に入れてお釈迦さまのいる王舎城へ帰っていきました。すると強欲婆さ
んは、後を追いかけて「この坊主は盗人だ。モチをかえせ」とどなりました。するとそこにお
釈迦さまが、お越しになって「これ婆よ。迦留陀夷は、モチひときれがほしいのではない。お
前の強欲を退治せんがため、あのようなことまでしたのだ」とお告げになると強欲婆さんは、
ようやく目が覚めたのです。さらにお釈迦さまは、「これ婆よ。このモチを供養してもよいか」
「よろしいですが、お釈迦さま、たったひときれのモチでどうして供養することができましょう」
するとお釈迦さまは、何と池の中にモチを放り込まれました。すると水から火がでたのです。
「婆よ。この場に及んでもお前の欲しいという執念が残っている。あの通りモチが火になった」
強欲婆さんは、いよいよあやまり入ったことでした。実は、この強欲婆さん、人ではなかった、
この私の貪欲（とんよく）という煩悩そのものでありました。
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「凡夫」というは、無明煩悩（むみょうぼんのう）われらが身にみちみちて、欲も多く怒り、
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腹立ちそねみ、ねたむ心多くひまなくして臨終の一念に至るまでとどまらず、消えず、たえず
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（一念多念文意） ◇
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□さるべき業縁のもよおさばいかなるふるまいもすべし（歎異抄）□
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とご開山親鸞聖人が申されたように 縁があれば何をしでかすかわからない自己中心的な私。その
ことに気づかない、気づけない私。その臨終の一念に至るまでとどまらない煩悩具足の私であった
と阿弥陀さまの法に照らされて何とあさましいお恥ずかしいことだったと気づかされるのです。言
うなれば気づかない私なればこそ騒音おばさんも強欲婆さんもそのことに気づいておくれよと与え
てくださった阿弥陀さまのお手回しだったのです。だからこそ、この私を慈悲のお心で、救わずに
おれないと阿弥陀さまのほうから、今ここで働いてくださっているそのご恩に感謝感謝のお念仏を
申させていただくことであります。